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第2回研究会「個人とファッションのはざま:現代ムスリム女性のヴェール着用」(2014年10月25日14時~18時 東京大学東洋文化研究所)

20140726imgポスター(PDF 204KB)
「新しい世界史」での活動報告(文面同じ)
基調報告:後藤絵美(東京大学)「ファッションはどうつくられたのか:20世紀エジプトのイスラーム運動を事例として」
コメント:野中葉(慶應義塾大学)「ヴェール着用を巡るインドネシアの状況」
コメント:角田奈歩(日本学術振興会)「パリの衣服製造・流通業とファッション伝達構造」

活動報告(井上直子)

10月25日、これまで「セカンド・ハンド」会議として継続してきた研究会が、新たに「糸・布・衣の循環史」研究会として共同研究の会議を開催する運びとなった。参加者の8割以上が女性という、通常の研究会とは異なる雰囲気の中で3名の発表がおこなわれた。

まず、後藤絵美(東京大学東洋文化研究所)から「ファッションはどうつくられたのか:20世紀エジプトのイスラーム運動を事例として」と題し、著書『神のためにまとうヴェール』(中央公論新社)をベースに、1970年代から2000年代にかけて増加した女性のヴェール着用(=ヴェールのファッション化)について考察が示され、背景に「ヴェールと女性の信仰心を結びつける宗教言説の浸透」があったと結論づけられた。
近現代エジプトにおける衣服の変化はムハンマド・アリー朝に始まり、20世紀にはミッションスクールの女生徒や女性運動参加者がまずヴェールを脱いだ。50年代から徐々に頭髪、顔、腕や足の露出が目立つようになるも、第三次中東戦争の敗北を契機に信仰の欠如への反省が促される。ナセルからサダト政権に移り各地にイスラーム団体が結成され、男女ともに西洋化したファッションからの変化が見られたが、90年年代にはヴェール専門店が登場し、着用者が徐々に増え、2000年代、如実に普及した。
変化の要因の1つとして、後藤氏は人気説教師アムル・ハーリドが提示した宗教言説に着目した。それまでの主要な宗教言説が「ヴェールは男性の欲望を防ぎ、社会の平安を保つためにまとう」という立場なのに対して、ハーリドは女性が信仰を示すべく主体的にヴェールを被るように促したのであった。また、彼が説教の中で既存のヴェール着用条件を緩和したことで、ファッション性の可能性も広がったことを指摘した。

続いて、野中葉(慶應大学)からコメントが述べられた。後藤研究における個人の意識や内面のプロセスへの着目、原典から人気説教師の言説、芸能人の語りを扱った冊子まで活用する手法の新しさを指摘。インドネシアではスハルト体制崩壊後に、民主化や経済成長の一方でイスラームが顕在化しておりヴェール着用者が業界を主導して多様化・商品化を進めていること、政府の支援を受けた重要産業と位置づけられていることに言及した。その一方で、着用条件の解釈には幅があり、インドネシアの宗教権威の多様な姿が示された。
最後に、2人目のコメンテーター、角田奈歩(日本学術振興会)からの発表があった。エジプト人女性のヴェール着用はファッションだが、そもそも西洋中心のファッション構造がイスラーム世界に適用できるか? エジプト人、インドネシア人女性の間でのヴェール着用拡大はボトム・アップ型ストリート・ファッションである一方、宗教主導者の役割を強調すればトップ・ダウン型。従来の服飾史、ファッション研究は信仰の問題を無視。こうした状況に一石を投じたのがヴェール「ファッション」。

参加者を交えたディスカッションでは、「イスラームは男性の宗教であり、ムスリム女性の服は大した問題ではなかった、西洋近代を意識する文脈で女性のヴェール着用が問題として認識された」という見解が示された。また「衣服を着る理由は社会と自分の2つだ」という意見に対し、後藤・野中は、ヴェール着用を理解するには「個人と社会(権威)」のみならず「個人と神」の対話が重要と指摘。これに関連して「ヴェール着用は宗教規範と結びついた近代の現象で、ファッションというよりはコード。規範は個人に内在化している可能性もある。個人が全てを決定できるというのは19世紀ヨーロッパの幻想。ヴェール着用の問題は、規範と個人の間で、人々の価値観が揺れ動いている現象。宗教的(神)であれ社会的であれ、道徳であれ、規範があり、一方に環境から生じる、願望、生活様式上の理想がある。そこからファッションも形成される。そのせめぎ合いの中で、ヴェールの巻き方などの工夫が生まれる。」とフロアから発言があった。
開催者の杉浦は「近代個人が選択できるのがファッション」とし、ハーリド以降、権威(男性)の押しつけ(規範)を、神を介した主体的の問題に転換した点、社会の多様性を強調。今後のヴェール着用について、野中はヴェールの形は変わるとしても、身体の一定部分を覆うという方向性は変わらないのでは、という見解を示し、後藤は、宗教言説が今後も変化する可能性がある以上、ヴェールが廃れることも考えられると述べた。

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